ユングが28年かけて書いた本

ユング自身が書き下ろした書物には難解なものが多いなか、ユング心理学全体について丁寧に解説がなされています。

読み終えたので感想。
まず注意ですが、「彼の著書にしては簡単に読める本」であり、一般的には難しい部類の本だと思います。訳者は「ユング心理学の入門書としても十分読める」と謳っていますが、何の前提知識も無しに読むとただただ奇妙で仕方がなく、圧倒されてしまうのではと思います。
河合先生の『ユング心理学入門』あたりで基礎体力をつけておくとよいかもしれません。


さて本題です。この本、とても薄いのです。(お値段も安い)
しかし、ユングの28年の経験を凝縮して書かれたこの本には、一度には消化しきれないほどの英知が詰まっており、ただ感嘆するしかありません。たっぷり時間をかけて良く噛んで読み進めたつもりですが、後日また読み返そうと考えています。まだまだ得るところが多分にあるように思うからです。


ユングの心理学ほぼ全体に渡って解説がなされていますが*1、特にペルソナ、アニマ・アニムスの解説に多くのページが割かれています。事前に多少は勉強していたつもりでしたが、新たな発見の連続です。概念にとどまらず実践的視線でもアニマを扱っていて、自我を魅惑してくるアニマとの対決についても書かれています。そして最終章のマナ人格へと続いていきます。


錬金術・・・霊の正体、神の存在・・・これらについても真面目に取り上げています。表面だけ見るとオカルトとしか思えませんが、この本を正しく読むことができた人には真実が分かるでしょう。すべて納得できます。


夢分析は思いのほかあまり登場しませんでした。逆に、能動的想像法(アクティブ・イマジネーション)の話が出てきます。訓練の具体的な方法については出てきませんが、名前くらいはご存知の方も多いはず。一歩間違えると精神病と区別がつかないような・・・。


心理学、とりわけ臨床心理学を学ぶ人には是非読んでいただきたい。
心理職の人間は自分と向き合い対決するべきだと河合先生もおっしゃっていましたが、そのためには分析心理学の知識が必要になってきます。
個性化の過程などは臨床の現場にとどまらず、全人類に関係することです。臨床心理に関係がない方にも読んでみてもらいたい。というか僕は臨床心理に関係ない人間です。脳科学の分野でも無意識の研究は行われていますが、認知科学に興味がある人にもオススメできます。


まとめ。大変素晴らしい本でした。
この薄さにこれだけの世界が広がっているとは。
僕は無条件にユング心理学(彼の説)を肯定する気はありませんが、知的興奮を覚えました。
自我と無意識

*1:タイプだとか、影についての説明はほとんどありません